tel.0744-52-3288
お問い合わせ

組織を死に至らしめる自己保存の本能

  1. ホーム
  2. コラム一覧

  3. 組織を死に至らしめる自己保存の本能

新年早々、何やら穏やかではない表題ではありますが、少しばかりお付き合いください。

表題の自己保存ですが、皆様はこれが、元来人間に刷り込まれている生得的な本能の一種だという事をご存じでしょうか。

要は、自身の生存確率を維持、又は向上する為の選択を自然に選ぶようDNAレベルで刷り込まれているのですが、これが様々なハレーションを発生させる装置にもなり得るという事です。

個人単位の変化から、組織課題に対するラディカルなアプローチへの過度なアレルギー反応の正体は、自己保存の本能が警鐘を鳴らし、広義な意味で生存確率の低下を回避する為、内外に変化をもたらすイノベーターを排斥、または終始微温的な姿勢に徹するといった、敢えて親和性を欠く事で自己保存の一種である自身の社会的欲求と心理的安全性を優先した結果です。

また、この自己保存の本能は様々な領域、分野でネガティブに作用します。

例えば、目的の必要性と手段の相当性という考え方において、物事(目的)の必要性を偏重するあまり、その相当性を欠く手段を甘受しているなど、「必要性と相当性」を同時に“セット”で判断すべきであるのに、不可分ではなく可分され、全体最適ではなく部分最適を優先してしまうことで、総合的判断を誤る可能性が生じます。

※必要性と相当性でピンと来ない場合は「手続き面と実体面」「形式的と実質的」「公法と私法」「客観と主観」に置き換えて頂いても構いません。

もう少し掘り下げましょう。

自己保存を優先する行動原理の一例として、成文律である法、又は規則や規定に依拠し、杓子定規な紋切り型の仕事をこなすことで、結果に対する責任の程度は悪果の場合、一定程度に抑える事ができます。つまり、アカウンタビリティ(結果に至るまでの責任)を緩和する為の緩衝材として、自身を守るお守りとなります。

しかし、組織改革を迫られる窮状に陥り、前例のない課題解決が求められたとしましょう。目的が改革であれば、取るべきに値するリスク(リスクテイク)と、取るに値しないリスク(リスクヘッジ)を見極め、選択と集中を行うべきですが、お守りの所有者がこの窮状に対して自己保存を優先すると、失敗を過度に恐れ、ヘッジを偏重します。

要は、自己保存を優先しようとコンフォートゾーンにしがみつき、目的の必要性を度外視で手段の相当性のみを偏重するような状態に陥ることで、喫緊の課題を解決する為に組織が一丸となるべき状況下においても、微温的、酷い場合は否定的な姿勢で友敵関係が醸造されます。

また、それが重症化した場合は最悪で、イノベーターを自己保存を脅かす存在だと誤認し、無軌道に非議したり、足元を掬おうと躍起になるため、必要である変化や改革を成せず、相当な苦労を強いられる事にもなり得ます。

一方で、不文律(暗黙の了解や不可視の力学、悪しき忖度など)が横行するような組織では、情緒的な判断やフィーリングで是非の判断を行う習慣が身についてしまっていますが、これは可及的速やかに改善すべき弊習です。

要は、アンフェアが通常運転で、結果に至る過程の相当性が全く担保されていない状態、つまり、目的の必要性を偏重すれば、結果に対する反動の負のエネルギーも≒となり、失墜した信用のレジリエンスに余分なコストを費やさざるを得ないリスクが生じ、トレードオフ。いわば一得一失になり得る事もあるという事ですが、さらに職員のモチベーションを著しく低下させてしまい、組織にとっては死に至る病となります。この蟻の一穴を野放しにすることで自己保存の本能がどう作用するか。

端的に言うと、鶏病を患います。(造語です)

鶏病の恐ろしいところは、毎日決まった時間にエサ(報酬)を与えてもらい、こちらの期待とは関係なく、定数化された数の卵(労働力・生産性)しか産みません。

その為、エサを多く与えられている鶏(報酬が高止まりしている既得権層の職員)も同様、与えられたエサの量に比例する数の卵を産み落として欲しいと思うものですが、寧ろエサの量に対して反比例するような、僅かな卵しか産まない鶏がかなりの割合で組織(鶏舎)にしがみついています。 

つまり鶏病とは、Pay For Performance を発揮できない組織(鶏舎)を作り上げ、生産性を著しく低下させる病で、それを打破するにはPay The Price 報酬(エサ)を働きに応じて変動させる仕組みをつくるしか打つ手はありません。

話を戻しましょう。

どれだけ有用な意見や、コンピテンシーが高い有能な職員であっても、決定権者の不合理極まりない悪しき忖度で意見や提案をスクリーニングされると、ボトムアップの習慣が潜在化し、会社にどう益を齎すかではなく、決定権者に好かれる為の仕事をするようになります。

つまり、組織の管理職や決定権者は、諫言や耳の痛い話ほど、真摯に耳を傾け、必要に応じて融和し、課題にフィットさせる必要があるのですが、この病を発症した職員は自己保存の本能が作用し、見て見ぬふりをする、余計な事を言わない、波風を立てない、俗に言う見ざる言わざる聞かざるの三猿を優先にドライブし始めます

こうして本来、組織を構成する様々な役割、体で例えると中枢神経を司る脳だけが機能している状態で、その他臓器、又は細胞が鶏病による機能不全に陥り、やがて組織は死に至るといったメカニズムです。

組織と体の構造はとても類似しており、役割、臓器がどれか一つでも欠けてしまうと、生存するための機能が著しく低下します。そして目先の傷口に絆創膏を貼るだけの対処療法ではもはや助かる事は不可能です。鶏病が病膏肓に入る前に手を打つしか助かる道はありません。

一対一対応の原則を念頭に、必要性と相当性の両輪を回す工夫が肝要となりますが、この自己保存の本能と組織の利害を一致させる仕組みづくりが何よりも組織を改革する上での一丁目一番地だという事です。

次長 足立

2025.01.13

謹賀新年

PREV

コラム一覧

to list