『タッチングの効果』
毎日暑い日が続きますが、皆さまいかがおすごしでしょうか。
久しぶりに家の片づけをしていると、昔学んだタクティールケアのテキストが出てきました。タクティールケアは北欧の国発祥の人の心を「安静」に導く「タッチング」の方法で、目を通していると改めて人の体の不思議を感じ、日頃のケアにも是非取り入れていきたいと思いました。今回はそんな人の心の「安静」について述べてみたいと思います。
ケアの中で相手の身体に優しく触れることを「タッチング」といい、医療の世界においては古くから患者と看護との間で使われてきたケアの一つとされています。
1960年代にスウェーデンの未熟児看護にあたっていた看護師らによって生み出されたこの方法は、未熟児に手で触れる事で発育が順調になり、親子の絆が深まるという事がわかり看護のケアに取り入れられるようになりました。現代ではこれらの手技が効果的に整えられ“タクティールケア”などが日本でも広く知られるようになり、看護だけでなく介護の世界でも用いられるようになりました。
人の身体に触れることで安静に導くこの技術は、ツボを押したり刺激するのではなく、優しい接触を継続的に行う事で“オキシトシン”別名「安静ホルモン」を分泌させることを目的としています。オキシトシンが血液を介して体内に広がることでストレスにより分泌された「コルチゾール」というホルモンの値を低下させ「安静」をもたらすことがわかっているからです。こういった効果を期待して未熟児看護だけでなく、うつ病や、認知症ケアにも生かされるようになりました。更に安静ホルモンは「痛みの緩和」にも効果を発揮することがわかりました。通常「痛み」の感覚は、皮膚にある受容体を通じて脳に伝達されますが「オキシトシン」はそれよりも速いスピードで脳に伝達されるため、痛みが和らいだように感じ、これを「ゲートコントロール」といいます。この効果を期待して癌患者など痛みに対するケアにも用いられるようになりました。
これら「安静ホルモン」は別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、人の心を安静に導いたり、痛みを緩和するだけでなく、人と人との信頼関係を築いたり、絆を深める役割も担うとされています。
ご利用者との関りで「あなたに会えてよかった。」「あなたがいてくれるから心強い。」そう思っていただけるようになるためにも、コミュニケーションの中に適切な「タッチング」を取り入れて、良きコミュニケーションをとれるよう心掛けていきたいです。そしてその際、相手のパーソナルスペースに入る者として、礼儀礼節をわきまえ、快く受け入れていただけるよう心配りを忘れないようにしていきたいと思います。
幼い子が母親に抱かれると知らず知らずのうちに穏やかな眠りにつく。このよく見かける当たり前の風景にも、こういった「幸せホルモン」なる不思議な関りがあるのだと考えると、親と子は勿論、人は人との関りによって癒されたり心強く感じるのだと、ケアに携わる者として自分たちの仕事の意義を改めて考えさせられるとともに、ケアを通じて自分もまた、知らず知らずに癒され、勇気づけられ、そうして人として成長させてもらっているのだと気づかされた、懐かしいテキストとの再会でした。
※パーソナルスペース=人に立ち入られると不快に感じたりかまえてしまうその人にとっての人との距離感のこと
久保
